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第一楽章「出会い」

あらすじ

音大生の秀行は恩師山岡の紹介でリゾート施設の客への
チェロの指導のバイトを引き受けた。
ところが実際は言葉を音としてしか理解しない少女、由希へ
の音楽療法がその目的だった。
一見感情がないようにみえる由希の様子を見て、いったんは
躊躇するものの、心臓病を患う弟:建志のためにも金が必要だと
考え直し、引き受けることにする。
そして、由希が並外れた絶対音感の持ち主だということ、だけ
でなく音楽的センスもきちんと持ち合わせていることを知る。
彼女のためのチェロをあつらえるため、由希の主治医深谷に
無断で街へ連れ出す秀行。
だが、由希は街にあふれる音の洪水に脅え、目を離したすきに
いなくなってしまう。
必死に探しても見つからない由希をみつけるため、秀行は
路上でチェロを弾き、由希を見つけることに成功した。


どうしたもんでしょう。OP前のたった数秒ですでに私は撃沈状態でした。
OPのタイトルバック。なんでこんなにきれいなんでしょう。
そして、秀行の絶望、絶望、絶望。
恐らく由希を亡くしたのだろう、秀行の血を吐く叫び、そして彼の命もまた残り少ないのではないか?と暗示させる秀逸なる映像。ポケットから出しているのは由希を焼いた灰に、ただ叫ぶその声は「由希」と言っているように、確かに見えました。
OPだけで一編のドラマです。
本編もすばらしかった。
やや展開が早いように見られる箇所もありましたが(いくらなんでも秀行がレッスンしょっぱな、いきなり「白鳥」を弾かせようとするのはいいのか?とか)それはまあ見過ごしていいレベルでしょう。
中谷美紀、すごい。
由希役完璧ですね。
そして、秀行!
微妙な表情が変化していくんですよ。オープニングとラストとでは、「由希」と呼ぶ表情が違う
最初は彼女を「うさんくさい」と思っていた秀行が、まず「絶対音感」を持っていることで興味を惹かれ、さらにチェロの音の善し悪しを理解する由希に思わず「普通の」音楽を理解するものとしての共通点を見いだし、自分の楽器を与えてやりたい、と熱烈に願い、思わず連れ出してしまう。
そして、いなくなられて心配して心配して、見つけた瞬間に、恐らく運命の恋に落ちる。
ここまでの変化がきちんと伝わってくる。
由希が特殊状況下にあるというだけで、これは普通の恋愛と変わらないじゃないですか。
存在を認知し、気になりだし、あるきっかけで恋に落ちる。
秀行が、私の目の前で恋に落ちていきました。
無駄がないというか、全てのシーンがどこかへつながる伏線になってるあたりも、完敗です。
これは、いいドラマですね。
例の矢田亜紀子とのキスシーンですが、あれひとつとっても秀行が保子を「すきっていえば、すきだけど、まだ本当の恋愛に踏み出してない」というのがわかる。
熱病のように待ってたかいがありました。
これは、秀作です。


第二楽章「君の意志」

あらすじ

深谷は秀行に由希に「人前でチェロを演奏させよう」と
提案する。既に由希の持つ音楽の才能の一端に触れていた
秀行は、躊躇しながらもその準備を了承する。
ピアノとの協奏曲を完成させようと、伴奏にあわせた演奏を
教えようとするが、由希は思い通りにチェロを弾こうとは
しない。
ふとしたことで、秀行が由希の肩に手をおいた時が
演奏のスタート・ストップのきっかけになっていることに気付くと
秀行は自分のピアノをテープに録って、練習を開始する。
はじめて秀行のテープ演奏に合わせてチェロを弾いた瞬間、
由希は微笑した。
由希のためにピアノ演奏者を迎えようとする秀行だが、招いた
奏者は、彼女の特殊能力による精神的暴力を加えられ、次々に
去っていく。
由希によって様子が一変した友人の木崎にあしざまにののし
られたショックから、秀行はチェロに対する情熱を失ってしまう。
保子にも冷たくあしらってしまい、ますます自己嫌悪に陥る秀行は、
由希の指導も辞した。
一方、泉の里に来ない秀行のために、由希ははじめて自分の意志で
チェロを弾きはじめた。いつまでも弾くのをやめない由希を案じた深
谷は秀行を呼び寄せる。
泉の里についた秀行は、由希が「自分の意志で」音を出していることを喜ぶ。
保子への態度も軟化し、懸案だった由希のピアノ伴奏を彼女に
引き受けてもらうことにしたが。
由希は無情にも、特殊能力を使って、保子の指をつぶしてしまうのだった。


堤監督のいう通り、中身がぎっちりつまった第二話。
この回で「ハルモニア」が恋愛ストーリーだと言うことを明確に暗示。
由希が秀行にしか心を開かず、ふたりの空間を邪魔をする全ての者を排除しようとする激しい感情とますます由希に入れ込んでいく秀行の心情とが交差した回でした。
由希が秀行に傾倒し、愛してしまったこと。そしてその音楽的才能に魅入られはじめた秀行が由希にのめり込んでいく。
狂気のはじまりのような、ぞくぞくするストーリー展開でした。
いや、しかしいい作品です。
かなりはっきりと由希の超常能力が現れてきますが、やっぱりこういうシーンは難しいですね。友人数名と見ておりましたが原作を知らないためか
「おいおい(^^;;」
とツッコミが入ってました。(まあ、由希が「この伴奏じゃいやだ」と言っているのは理解できたみたいなので、一概に失敗とはいえないと思いますが)
唇だけが赤い由希の映像は迫力がありましたねえ。
健志がどうやら、保子をすきらしいこともわかってきましたし、反して秀行は保子にそれほど入れ込んでいるわけではないことも、プレゼントのシーンで明確になってきました。(抱きつかれても、どうしていいのかわからない表情をしているだけで、抱き返してるわけじゃないんだもんな)
台詞の隙間、シーンの狭間に実にたくさんのものが見えますね。

今回は、秀行が由希にどんどん惹かれていくシーンが胸にせまりました。
自分の手にある魔法だとか、一瞬だけの微笑に「もしかしたら」と、音楽への可能性という熱情を募らせて由希に入れ込んでいく秀行がすごかったです。
どうしても「誰かに聴かせたい」という思いを持ってくれない由希、そして音楽でつながった友人の背信の感情につぶされて「チェロ」そのものにすら背を向けてしまうあたり、若い芸術家の絶望が見えました。
原作と違う年齢設定だからこそ生きてくる感情だなあ。

そして、熱望した由希が誰かにチェロを聴かせたいと思う心、そこからつむぎだされた「由希の音」を聴いた第一声に涙しました。
「あいしてる」ではなく
「できたじゃないか。君の意志で」
指から血を流しながら音を紡いだ由希を抱きしめる秀行の瞳から流れる涙が実に印象的でした。
音楽を信じてもいいんだと、音楽ってすごいものなんだと、もう一度由希に教えられた・・・・救われた一瞬だったのでしょうね。
由希の、秀行と音を通じて通いあったときの、表情も素晴らしい。
実にいい、作品です。


第三楽章「由希の音」

あらすじ

保子のケガがきっかけで、由希から離れる決心をする秀行。
バイトも断り、ジュリアード留学のための練習に専念する。
一方の由希は秀行がこなくなってからも、毎日同じ時間に
チェロを持ってプレイルームで秀行を待ち続ける。
深谷はそんな由希に秀行がもう泉の里には来ないことを告げ、
代わりにルー・メイ・メンドーサのビデオを無伴奏のチェロ曲の
手本として見せ続ける。
が、由希はチェロを弾こうとはせず、ひたすら秀行を待ち続ける。
留学試験当日の朝、深谷はたまらず秀行に「とにかく一度
泉の里に来て欲しい」と懇願する。
その場では深谷の頼みを断ったものの、由希のことが頭から
離れない秀行は、試験中も上の空で留学試験に失敗する。
試験会場からその足で泉の里に向かう秀行。
そこには、由希が静かに秀行を待っていた。
秀行が現れた途端、微かに喜びの笑みを浮かべる由希。
再びレッスンが再開される。
秀行は由希のチェロに表情がついたことに気づき、喜ぶ。
だが、保子とは由希の元へ行ったことから亀裂が生じる。
セミナー当日、由希はなんとかうまく演奏をこなす。
安堵した帰路、秀行達はカーラジオでさっきの由希の演奏と寸分
違わぬ演奏を聴いた。
それは、来日中突如謎の自殺を遂げたルー・メイ・メンドーサの
ものだった。
秀行は、由希の演奏が実はルー・メイのコピーだと言うことに
気付いて、愕然とする。


今まで放映された回の中で、多分もっともよい出来だったのではないでしょうか?
秀行という人物は、演奏家としては非常にその時々の感情に出来が左右されるタイプの人間なのですね。努力型の典型みたいな人間だけに、芸術家としても由希の持つ未知数の天才に惹かれるのだな、と思いましたです。
いや、それにしても!保子はかわいそうですねえ。
そりゃ怒るわな。自分の将来をつぶした女に自分の恋人がどうしようもなく惹かれてるのがわかって、しかも止められない。だけでなく、その演奏が自分よりも上だということもわかってしまって、彼女のプライドも何も木っ端みじん。
それに反して由希。
秀行が再びプレイルームに現れたときのあの何とも言えない微笑。中谷美紀、すごい。
そして、どんどん先鋭化してくる由希の演奏技術と特殊能力。
秀行を巡るふたりの女性の明暗をくっきり描いてましたね。
迫力とスリルとに満ちた、すごい回でした。中沢と深谷の由希にかかわる過去らしきものもほの見えて、これからの展開が楽しみです。

秀行がいったんは保子のために由希と決別することを決め、ジュリアード留学に向けて邁進している姿が、多分最後の彼の平穏な日々になりそうで怖いです。
秀行は多分、由希に会わなければジュリアードに留学し、音楽家の端くれとしてピアノ教師の妻と生きたのだろうに。
留学試験のあの場面で由希を思ってしまった時点で、秀行はもしかしたら永遠に平穏を捨ててしまったのかもしれないですね。そう思うととても、切ないです。
ファーストシーンから破滅を予感させる滑り出しだっただけに、悲しい。
ああ、それにしてもなんて秀行はドレスシャツが似合うのでしょう????そして、なんて指が美しいのでしょう???
真剣に練習している姿にくらくらしてしまいました。
ひとえに自分のためだけに一生懸命になるのはあれが最後になるのでしょうか?
来週がぞくぞくするくらい楽しみですねえ。


第四楽章「奇跡」

あらすじ

死んだルー・メイと同じ演奏をする由希にマスコミの
注目が集まり出す。秀行はなんとか由希に「自分の音」を
出させようと、努力するが、うまくいかない。
そんなとき秀行は恩師山岡に「音楽家が目指す究極の音・
ハルモニア」の話を聴かされる。
時を同じくして、由希の演奏に目をつけた音楽事務所の柏木が
由希に「ルー・メイの追悼コンサートに出演させたい」と秀行に
接触してきた。
音楽業界における権限をちらつかされ、結局由希の演奏会出演を
了承する秀行。
コンサートはルー・メイそっくりの演奏をする由希への絶賛で終わった。
その晩、秀行は深谷から実は由希から言葉を奪ったのが深谷自身であること、
由希から可能性を奪わないで欲しいと懇願される。
マスコミがこぞって由希をもちあげる中、ひとりで由希に「真実の音」を
見つけさせようとするが、かえってそのことが周囲の不興を買い
秀行は由希の教師をクビになってしまう。
最後に、由希に語りかけながら、自分のチェロを弾いて聴かせる秀行。
そのとき、由希は演奏を聴きながら涙を流した。
秀行の後任になったのは、山岡だった。
由希のつきそいで山岡の家に行った秀行は、レッスン中不思議な幻覚
を見る。急いでレッスン室へ駆けつけると、山岡に襲われたらしい由希と
その横で放心する恩師を見つける。
信じていた恩師に裏切られたことに怒り、失望し、山岡をなぐる秀行。
泉の里で深谷に一部始終を報告した秀行は深谷から由希が超常能力を
身につけていることを聴かされた。


TVを見ながら涙が止まらなかったのは久しぶりです。
光ちゃんが「四話から六話にかけてもりあがりますよ」と言ってましたが、もう、泣くしかなかったです。

特に由希の教師をやめると告げてチェロを弾く場面はもう(T^T)たまりませんでした。
由希にむかって語りかける秀行の瞳がひどく澄んでいて、だからこそたまらなかったです。
「由希の教師になるには荷が勝ちすぎるんじゃないか?」と自分の無能さと凡才さを他人から断ぜられても、それを認めてしまわざるをえない己への失望感が、彼から「なんとしても由希の音を引き出す」というりきみをなくさせていて、つるりとした寂しさが全身をおおっていました。

今回は秀行がいよいよ他の全てを削ぎ落として由希へと向かう話だったと思うのですが、由希のためにすでに保子を捨て、周囲の友人達とも疎遠になり、柏木に疎んじられることで音楽家としての未来もなくし、そして親代わりの尊敬していた師までも失う。
秀行の日常が失われていく。健志の発作と、その時に「由希のために」弟の危急に立ち会えなかったエピソードがまた暗い予感を誘います。

秀行はいろんな物をなくす代わりに由希とのつながりを深くしていくのですね。
そうして、戻れなくなる。
いや、もう戻れないところに秀行は来てしまっているのですが。
彼にとって、何が不幸で何が幸せなのか、もうわからないです。
ただひたすら由希に向かっている秀行。
本当に全てなくしていくのに、それでもそのことに多分気付いてすらいない。
切ないですね。

恩師山岡をなぐるシーンも泣けました。
山岡というのは、秀行にとっては師以上の存在だったのは間違いないわけで、そんな人がおよそ人間として考えられるもっとも下劣なことを、言葉を持たぬ由希に仕掛けた。
憤りと、それよりも深い悲しみとに震える声がつらかったです。

役者・堂本光一。
大したもんです。ストイックで一筋な秀行はこの人だから生きる役ですね。
来週が待ち遠しい。


第五楽章「メッセージ」

あらすじ

由希を襲った山岡は、逆に由希の能力のために、
倒れてしまい、予定していた演奏会をキャンセルする
ことになる。それが秀行のせいだと看破した柏木は
秀行を責める。
見かねた深谷は山岡の代わりに由希の演奏会出演を
提案した。深谷の計らいで再び由希のチェロ教師になった
秀行はなんとか「由希の音」を出させようと苦心するが、
うまくいかない。
そんな中、保子のケガはギブスがようやく取れるに至った。
友人達の画策で表面上は関係が修復したように見えるふたり
だったが、秀行の心はすでに保子にはない。
山岡に呼び出された秀行は保子の小指が二度と動かなくなった
ことを聴かされる。山岡親子への贖罪に悩む秀行。
そしてまた、秀行の弟健志の心臓の具合も日に日に悪化しつつ
あった。
一方、由希は自室に飾ってあった海の写真の続きを描くように
壁に折り紙を張り付けて、岬の風景を描き出す。
それが、由希の自分へのメッセージだと気づいた秀行は由希の
故郷の海へ同じ風景を探しに行く。
由希が伝えた風景の中で「由希の真実の意志」と、そして心の奥底で
やはり由希が自分の音を奏でたがっていることを確信する秀行。
深谷をだまして、由希と2人プレイルームでレッスンをはじめるが、
由希に染み込んだルー・メイの影はなかなか消えない。
ついに由希の能力は秀行を襲い、健志にまつわるトラウマを秀行に
見せる。
が、次の瞬間由希ははじめて「自分の音」をチェロで奏でると倒れて
しまった。秀行は由希が自分の代わりに倒れたことに勘づく。
そのころ、自分の小指がつかいものにならなくなったことに気づいた
保子は自暴自棄となり線路わきにたたずんでいた。


大変な展開になってきました。
山岡家を筆頭に、秀行の日常に強く関わっていた人々が暗い運命に向かっていきます。そして秀行は、保子や山岡が「由希のせいで」あんな状態に陥ったと知っていてもなお、由希に向かう心をもう止められなくなっているんですね。秀行自身ははっきりとした自覚がまだなくても戻れない恋に落ちてしまった。
そうして、この秀行の恋は秀行が所属していた日常の全ての人を不幸にしていくだけの恋なんですね。
なんだか切なさに泣いてしまいそうです。
第五話は、由希が自分の心の一番奥底の願いを秀行が受け止めることでより一層秀行にとって由希だけがたったひとりの人へとなっていく回だったかな、と思っています。

秀行に海のイメージを投げたのも、そして海へ行かせたのもルー・メイの影に占領されてしまった心の奥の奥にある「由希のハルモニア」がどんなものか秀行に伝えるためだったんですねー。深い。
本当は自分の音を弾きたい。でもどうしたらいいのかわからない。助けて欲しい。他の誰でもない、唯一自分を理解してくれる秀行に何とかして欲しい。
由希の願いも想いも純粋で強すぎて、それだけに原始の凶暴さをもって秀行をゆさぶるんだろうなあ。
自分の願い(欲望とも言えるかもしれない)に正直すぎて、自分から秀行を取り上げるかも知れない全てを拒絶するんでしょう。しかも考えを巡らせての行動ではなく、具体的行動でもって秀行を奪った人に対してのみ(ピアノの演奏をしようとしたり、秀行の代わりにレッスンをつけようとしたり)拒絶反応をしめしてるんですから始末に負えない。
秀行にしてみたら、自分に対してまっすぐ向かってくる心がいじらしくてならないんでしょうね。しかも由希は秀行自身が最も情熱を傾けるチェロを通して、音楽の奇跡を自分に見せてくれてるんだもんな。そりゃ、惚れるよなあ。
山岡親子に対して、心苦しく思いながらももう、自分を止めることのできなくなった秀行が悲しいくらい素敵でした。

ルー・メイの排除を強要すれば、由希がどんな行為に及ぶのか何度もその例を間近で目にしているのにそれでも、身体を張って命を賭してでも弾かせてやりたいと願うまっすぐで、ある種残酷なくらいストイックな愛情が、がんがんきました。殺されてもいいから、それでも。

ラスト、秀行へ向かう力を自分に向けて倒れた由希に半狂乱になって応急処置をとりながら
「なんでおれじゃねえんだよ・・・」
と嘆く秀行が印象的でした。保子に対しては一度もそんなこと思ってないんですよね。
誰にも祝福されない愛の物語。なんだか痛いですね。


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